映画「ドリス・ヴァン・ノッテン」を着物デザイナーの視点から観た
映画「ドリス・ヴァン・ノッテン」を着物デザイナーの視点から観た
着物デザイナーの木越まりです。
なかなか映画を観る時間が取れなくて、見逃してばかりの私ですが、これは外せない!!と慌てて観てきました。
映画「ドリス・ヴァン・ノッテン」
http://dries-movie.com
「ファッションデザイナー ドリス・ヴァン・ノッテン。これはファッション勢力図を塗り替えた企業買収の嵐や、共同経営者の死を乗り越え、唯一無二のブランドを牽引する天才デザイナー、ドリス本人に迫る初のドキュメンタリー映画」
私は着物デザイナーになる前は「ヨーガンレール」という洋服のブランドでテキスタイルデザイナー(生地をデザインする仕事)をしていました。
ファッションショーをしないブランドだったので、ショーに対する熱意、多忙さ、時間の流れは実感できていないものの、映像に出てくる生地選び、フォルム、パターン、フィッティングなどは体験していたので、すごくのめり込んで観ました。
映画を観る時はいつもそうなのですが「今の私にこの映画は何をもたらしてくれるだろう?」と思って観ています。
今回この映画は着物デザイナーとしての私に3つ素敵なことを与えてくれました。
1つ目の素敵なこと:「ファッション」に対する想いの違い
映画が始まってまだ数分。
彼が言ったのです。
「私はファッションという言葉が嫌い」と。
ええーーー???私は耳を疑いました。(実際は必死に字幕を読んでいたので目なんですけど)
30年前にすでに着物ブランドの撫松庵が提唱していた「着物はファッション」という言葉が大好きで、私は今でもいつもこの言葉を使っています。
着物はタンスにしまうものではなくワードローブの一つ、ファッションだもの!!
ところがドリス・ヴァン・ノッテンは違いました。
「ファストファッションのように半年で古くなるものは嫌い。
ずっと着られるものを作りたい。
だからファッションという言葉は嫌い。何か他の言葉で表現したい。」と。
なるほど。
洋服の世界では「買う→着る→流行が終わる→捨てる」が早すぎる時代になってもうかなり経つ。
彼はもっと着ることを大切にしてもらえるデザインをしたいのだ。
これって素敵なこと。
ん?というか。。。
着物の世界では当たり前ーーーーー!!!
着物は買ったものが半年後に「古臭!もう着たく無い!」とはならない。
何なら、親からもらった着物が20代では着たくなかったけれど「40代になった今、素敵に感じる❤️」なんてこともざら。
しかも着物は形が大きく変わらないから、着方に変化をもたらしたり、
生地が四角いから、何か他のものにしちゃうこともでき、、、
着物って、とにかく「長く愛することのできる服」なの。
着物が好きな人なら当たり前の話で、ここが着物を愛すべき一つの要因なわけ。
でも洋服の立場から見ると、洋服はかなり違う。
どこの視点からものを見るかでこんなに発想が違うものかと再確認。
でも、要はドリス・ヴァン・ノッテンと思いは同じ。
長く愛してもらえるデザインをしたい
だよね❤️
2つ目の素敵なこと:時間割と美しい生活
ドリス・ヴァン・ノッテンは時間の使い方が私と似ていた。
彼は非常に細かくて、潔癖なように思えるほど、繊細な生活をしているので、私はそこまででは無いのだけど。。。(苦笑)。
休みの日も、何をするか時間割を作って過ごす
実は私もそうなのです。
仕事はチームワーク、そして対外的にきちんとしないと成り立たないので時間割は必須です。
が、仕事以外もきっちりと計画しないと気が済まないタイプ。
海外旅行へ行っても「何時から、何時まで、プールサイドでぼーっとする」という「ルーズな時間」ですら時間割に入れる。
これ、原因は「欲張り」。
きっとドリス・ヴァン・ノッテンもそう(勝手に決めた)。
映画の中で、彼は貪欲に知りたがる。見たがる。頭の中で解釈をしたがっていた。
私もそう。とにかく何かを吸収したい。行ってみたい、見てみたい。食べてみたい(笑)。
同じだな〜と思って嬉しかった。
ただし、彼には多くのスタッフと、財力があり、私の規模とは相当違っていたけれど。。。
プライベートですら時間割を作ってあんなに様々なことをきちっとやれる基盤が欲しい。。。
そして生活の全てが美しい
とにかくこの映画は美しい。
私が絶対観なくちゃ!と思った映画に「マリメッコ」もあった。
数年前に日本でも上映。「日本のマリメッコになりたい!」と言っている私ですから、そりゃ絶対観ますよね。
そして観たら、あんなにがっかりした映画は「ダンサーインザダーク」の2番目でしたよ。
それはそれは暗くて悲しい、そして難解な映画だった。。。
ある意味、すごくびっくりするから皆さんも観て欲しい。あのダメ映画「マリメッコ」。
マリメッコの概念が変わります(苦笑)。
でも、このドリス・ヴァン・ノッテンは違っていた。
美しい!!
彼の見た目、彼の品格、彼の生活、彼の生み出すデザイン。
家、インテリア、テキスタイル、庭、キッチン、犬。。。
全て美しい!!
こんな羨ましいことはない。
そしてそれは私の大好きなテイストに近い。
彼が庭から花を切って来て、花瓶に生けるシーンは細かさ、こだわり、美しさが際立っていた。
着物だろうが洋服だろうが、デザインする人は生活の全てが、見たものの全てが自分のデザインに影響する。
時間割を作りたくなるほど、何かを吸収したく、そして自分が認めた美しいもので囲まれていなければならない。
そういう生活が根底になり、良いものが生み出せるのだな〜と思う。
3つ目の素敵なこと:やり切ればそれが正解ってこと
彼はスタッフが集めて来た要素(生地やフォルムや演出)をものすごく思慮深く見つめ、冷静にデザインやショーの内容を決めていた。
時には、足し算。
花柄に花柄を乗せ、生地も様々なもの(要素)をぶつけていた。
時には引き算。
チェックにチェックは古臭いと、パンツは無地にしたりして、削ぎ落とすような作業もしていた。
こんな作業はもちろん着物のデザインも同じ。
最近は着物でも装飾的な着こなしが楽しめるようになり、20年前に撫松庵に私がいた頃「ドヒャー!」ってなっていたデザインが、最近はものすごく普通に受け入れてもらえるようになった。
だから、足し算のデザインはとてもしやすくなった。
無論、引き算のデザインは着物業界にはお手の物。
洋服も着物も同じだな〜とここでも再確認。
そして。
数年前の彼のコレクションでは、マリリンモンローの写真をプリントした生地を多用していた。
正直言ってそれが素敵なのかダサいのかなんて、誰にもわからない。
ただし、彼はものすごく考えてデザインしていたし、彼なりの理由があった。
だから、やり切っていたから素敵に見えた。
そうだな〜。やり切ればいいのだなと思う。
昔のギャルソンとか、もうなんだかよくわからなかったけど、それがその時のベストな「川久保玲」なんだもの。
デザインなんてそんなもの。
着物も同じ。
生まれて初めて「また観たい」と思った映画だった。
まあ、理由はビデオになりそうもないし、目が悪くなっちゃってメガネかコンタクトをしてもう一度しっかり観たいなと思ったからかも(苦笑)。
映画っていいですよね。人生の何かを増やしてくれる感じがするから❤️
ペラペラなのに700円もするパンフを買ったのでしっかり読んでみようと思いま〜す。
着物デザイナー木越まり
着物ブランド「加花-KAHANA」
kahana-kimono.com
2018年1月21日/作成者: nakano